第18章 記憶喪失に…なりました?
その人がまた知らせに来てくれて、取り敢えずは最長で一週間の入院…という名の滞在が許された。
一週間…、一週間か…。
「どうしよう…。」
こんな右も左も分からない所に住むの?
衣食住ってどうやって揃えたらいいのよ。
日中はぼぅっとして過ごしてたけど、さすがに手持ち無沙汰だった。
じっとしてると、じわじわと不安が這い上がってきて落ち着かないし。
「…散歩ってしてもいいのかしら?」
どこかに情報誌とか置いてないのかね。
それに夕方からだと動くに動けなくなりそう。
「…よし、まずは出歩いてみるか。」
病院着のまま病室を出ようとドアをガラッと開けた時、誰かも丁度入ってくる所だった。
左側の頬に幾つかの傷跡のある男の人で、その人は私を見て目を見開いた。
「エニシ、だよな?」
「はい、エニシですが。」
戸惑いがちに聞かれてこっちも戸惑う。
「記憶喪失って聞いたんだけど…。」
「そうみたいです、ね…。」
「その…俺のことも覚えてない?」
…私を知ってる人?
けれど、私には全く見覚えはない。
全くの初対面「はじめまして」状態だ。
私はコメントのしようがなくて、黙ったまま首を振る。
すると、その人は明らかにがっかりしたように肩を落としてしまう。
「あの…、ごめんなさい…。」
居た堪れない…。