第14章 暗部でのお仕事始めました
「それはまた何で?」
「それは…、ってお前こそ何でなのよ?」
(…ちっ、聞けそうだったのに。)
カカシが問いを丸投げして返すと、エニシはそっぽを向いて小声でぼそぼそと呟く。
だが、カカシには丸聞こえである。
「聞こえてるぞー。」
カカシが言うと、エニシは何事もなかった様に口を開いた。
「私は誰彼を好きって、微塵も思ったことがないから想像できないんです。カカシ先生は?」
絶対嘘だろ、と思いつつも彼は聞き出すのを諦める。
「俺もそんな感じかな…。」
班の仲間を失って以来、誰かを想うという気持ちが枯れたように途絶えてしまったのも事実だった。
だが、エニシはぶすっと顔を顰める。
「やっぱな〜。絶対乗っかると思った。」
「あれ〜、信じてないの?」
「だって私より十も年上で恋もしたことないっていうんですか〜?」
「年齢は関係ないでしょ。大体女の子の方がませてるんだからお前の年齢で恋を知らないなんてないでしょ。」
応酬に応酬を重ねた二人だが、それが互いの何かを削り合う事に気がついた。
「…なんか不毛な水掛け論になりそうですね。」
「そうね…。やめようか。」
「そうですね…。」
そしてまた、二人の間に沈黙が流れる。
エニシは地面を揺れる影法師を眺めてから、ふっと空を見上げた。
「月が綺麗ですねぇ。」
「そうだねぇ。」
「そういえば、知ってます?月には…」
二人は先ほどの話が無かったことのように全く違う話に花を咲かせ始めた。