第3章 私が今、出来る事
耳を塞ぎたくなる様な悍ましい咆哮が絶えず聞こる。
手足を踏み鳴らす度に大地は抉れ、尾をニ、三振る度に家が数軒弾き飛んだ。
私達は、九尾の視界から外れる様に遠回りをしながら端へ端へと逃げて行く。
後ろなど構ってはいられなかった。
私は、攻撃が緩くなった所で立ち止まり、振り返って見た。
遠くの方でまだ九尾は暴れている。
多くの人が九尾に向かって攻撃を繰り出しているのが見えた。
あぁ、これは大勢死ぬだろうな、と漠然と思う。
もう、取り返しがつかない。
何をどう言い繕っても、九尾は破壊者で殺戮者だ。
そして、その上に立つうちはは悪だ。
最悪のシナリオが出来上がってしまった。
私は無力感に歯噛みする。
私に力があったら止められた?
分からない。
けど、悔しい。
こんな所にいて、逃げ惑うしか出来ない自分が情けない。
私は手をぎゅっと握り込んで九尾を見た。
目の奥がぎゅっと痛くて熱くなる。
一瞬視界が赤に染まった。
「エニシ!ぼさっとするな!」
兄ちゃんに後ろから怒鳴られて、気が霧散した。
視界はまたいつも通りに戻っている。
「…ごめん、今行く。」
私は九尾から視線を外して家族の元に走って行った。