第14章 暗部でのお仕事始めました
―どうして…。
カカシは奥底からざわざわとした嫌な不安が湧くのを感じていた。
―もし…、アイツがリンの最期を知っていたとしたら…。
先程まで、あり得ないと思っていた“もしも”が現実味を帯びてカカシを包み込む。
オビトがどれほどリンを想っていたか、カカシはよく知っていた。
もしも、その想いが絶望に振り切れたら…。
「…先生?だ、大丈夫ですか…?」
「あ、あぁ…。」
そう言って少し頷いたものの、カカシは動揺を隠せなかった。
もしも…、もしも、と悪い予感が湧くたびに千鳥で貫いた感触がまざまざと蘇ってきた。
肉を絶つ感触と、手を覆う生暖かい赤…。
小刻みに震え出した手を呆然と見ていると、不意にぎゅっと握られた。
「推測です。まだ推測ですから。」
自分が言うのもなんですが、とエニシは言いながらも、両手でしっかりとカカシの手を握り込んだ。
「悪く考えたらダメです。」
エニシは懸命にカカシの手を摩り始めた。
大丈夫、まだ大丈夫、と小さく繰り返しながら、カカシの冷たくなった手を温める。
暫くそれをぼんやり見ていたカカシだが、なんだか段々可笑しく思えてきた。
こんな年下の子に、大丈夫だと言い聞かされて手を摩られて。
でも…、不思議とエニシの“大丈夫”がキズに染み渡っていく気がした。
カカシは力強くエニシの手を握り返す。
すると、彼女ははっとカカシを見上げた。
「カカシさん…。」
呟く様に言いながら、ほぅっと肩の力が抜けたエニシを見て、カカシはふっと笑う。
―初めて先生って呼ばなかったな。
「もう、大丈夫だ。」
カカシが言うと、エニシはそっと両手を離した。
彼は少し名残り惜しげに手を引くと、額当ての布を引き下げて写輪眼を隠す。
「さて、次は?」
カカシはいつも通りにこりと笑った。