第13章 変わりゆく日常と濃くなる影
「だけど、エニシも記憶があるって…。」
「ほんの少しだけ、ね。本当は前世の前世、その前世…って何回も輪廻を繰り返してるの。”由紀”の記憶以外にもたくさんあるのよ。」
ユキは悲しげに瞳を翳らせた。
「その全てが悲しい末路を辿っていて、エニシは背負いきれなかったのね。だから私が形作られた。あの子は私の存在を知らないわ…。」
「だから…エニシの中にいる、と。」
「そう。だから結局のところ、私もエニシなのよ。」
「……。」
俄には信じがたい事態に、シスイは言葉を失う。
そんな彼を見て、ユキはまた静かに笑った。
「ね、戸惑うでしょう?だから、私の事はユキと呼んで?その方が区別がつくわ。」
「あ、あぁ…。」
他に言いようもないシスイは、了承の返事をするしかなかった。
しかし、疑問も色々と出てくる。
それが本当だとすると、エニシが起きている時にユキはどうしているのだろう?
ユキも写輪眼を使えるのか、起きている時に入れ替わることはあるのか…など。
「ユキは…、いつもは、どうしてるんだ?」
どう問いかけるのが正解なのかが分からず、曖昧になってしまう。
ユキはくすりと笑う。
「そうね…、あなたの稽古はとても厳しいわ。私も後ろから教えてもらってるけど、覚えるまでが険しい道のりね。」
「…そうか。」
―全て記憶がある、と…。
シスイは気まずげにすっと目を逸らす。
今日も今日とて、しこたま詰め込んだばかりだ。
だからこそ、ちょっとやそっとでは起きないと思っていたのだから。
「それじゃ、写輪眼はエニシと同じ様に使い熟せるのか?」
「そうね、エニシより動体視力は劣るでしょうけど、幻術はできると思うわ。」
「幻術を…?だが、エニシはできなかった。」
「幻術は相手の精神に入り込み、より辛い幻覚を見せる事で相手を陥落させる術なのでしょう?」
「あぁ。」
「なら、私の方が適任よ。私は辛い記憶を全て引き受けているもの。エニシが出来ないのはきっと無意識に私を避けてるからじゃないかしら。」
「避けてる?」
不思議そうなシスイに、ユキは目を伏せた。