第13章 変わりゆく日常と濃くなる影
夕方から夜にかけてエニシの修行に付き合ったシスイは、自室で書類の整理をしていた。
隣はエニシの部屋で、彼女はぐったりと倒れ込む様に布団に入っていた。
今日はもう起きてこないだろうと、シスイは思う。
元々眠りが深い方ではあるが、こういった時には更に眠りが深くなる。少しの物音では全く気づくことはない。
シスイは、遠慮なく本やら資料の束やらを閉じたり開いたりと作業に勤しむ。
一通り整理を終えた頃には、日付はとうに跨いでいた。
「そろそろ寝なきゃな…。」
広げていた本や資料をそっと片付けると、電気を消す。
さて、布団に入ろうかと思ったその時、隣から人の気配がした。
珍しくエニシが起きたのかと襖を開けて見てみると、布団は綺麗に整えられていて彼女の姿はない。
だが、すぐ向こうの縁側で膝を抱えてぼんやり空を見上げる後ろ姿が見えた。
「なんだ、眠れないのか?」
声をかけてもエニシから返事はない。
不思議に思い、シスイは彼女の隣へと近づいていく。
「エニシ?どうした…。」
振り向いた彼女にシスイは息を呑む。
目を見ただけでエニシではないと分かった。
瞳の色はいつも通りでも、目の動かし方、表情の作り方が違う。
「おま、え…。」
―誰だ…!?
咄嗟に彼は写輪眼に切り替えたが、変化している他人でもなく、輪郭もチャクラもいつも通りのエニシだった。
そんな兄を見て、エニシはおかしそうにくすくすと笑う。
その大人っぽい仕草も、いつものエニシでない事がシスイを一層混乱させた。
「驚かせてごめんなさい。エニシは今眠ってるから私が少し借りてるの。」
「か、りてる?」
「私はこの子の中にいるのよ。」
「なか…?」
話せば話すほど、混乱の様相を深くするシスイに彼女は少し苦笑した。
彼女は、少し考える仕草を見せた後、ふっと表情が変わる。
「そうね、私の事はユキと呼んで。」
ユキ…?どこかで…。
「…もしかして、前世の名前?」
「えぇ、そうよ。」