第13章 変わりゆく日常と濃くなる影
―あの子と話したのは、四年ほど前だったか…。
カカシは頂上から去っていく後ろ姿を見守る。
「大きくなったねえ…。」
彼は、途方に暮れて泣きべそかいていたエニシを思い出すと、ふっと優しく笑う。
「あの事件から四年、か…。」
時間だけが無為に過ぎていく様で、遣る瀬無さだけが心の奥に降り積もっていく。
オビトを亡くし、リンを亡くし、ミナト先生までもを亡くした。
良くしてくれたクシナさんと共に…。
カカシはそっと左目に手を当てる。
そこには亡き友の形見が布の奥に隠されている。
「ふぅ〜…。」
詰めていた息を深く吐き出すと空を見上げた。
―止まってはいけない…。
目を背けてはいけない。
カカシは強く深く、心に根を張る様に言い聞かせる。
あるべき姿を取るべきなのだ、と。
火影になりたいと言った友の為に。
守りきれなかった友の為に…。
「…もう一回だ。」
カカシは立ち上がり、右手を背中に回して枷にする。
そして、一歩、また一歩と集中して岩肌に足をかけて降りていく。
命綱など何もない。
一歩を踏み外せば体勢を立て直すのは難しいだろう。
だからこそ、失敗は許されない。
あらゆる局面、あらゆる可能性を計算し、そのすべての対応策を考えながら慎重を期す。
「…ふう〜…。」
降りきった時には、気力も体力も大きく削れている。
それでも限界までそれを何度でも繰り返す。
今までもこれからも。
さてもう一度、と思った時に、草むらの間にいつもと違う物が目に入る。
近づいてみると、林檎が二つ。ハンカチの上に乗せられていた。
深い藍色にぽつんと描かれた紅玉は、うちはの家紋を思わせる。
それを見たカカシに、嬉しそうな笑みが小さく浮かぶ。
「いただきます。」
彼は林檎を一つ取ると、袖で少し拭いて一口齧った。
すると、甘酸っぱい爽やかな香りが広がり、甘い汁が乾いた喉を潤していく。
二口、三口と続けて齧ると一息つく。
「…よし、やるか。」
食べかけの林檎を置くと、カカシはもう一度歩いて行った。