第3章 私が今、出来る事
「ただいま。」
シスイは任務から帰り、玄関から居間へ上がると、おかえり、と言いながらバタバタと母が走って出迎えた。
「ちょうど良かったわ。ねぇ、エニシの様子を見にいってくれない?また何か始めたのよ。」
「…また机に向かってるのか?」
「そうなの。」
…喜ばしいとは思わないのだろうか、とシスイは内心思う。
普段、勉強、勉強とエニシをせっついているのに、いざ机に向かい出すと心配する。
親心とは何とも複雑なものである。
「…俺が見てくるから、母さんは心配しなくていい。」
シスイは一つため息をつくと、部屋へと足を向けた。
エニシが何かを始めたのならば、それはこれから起こる事に関係する事なのだろう、とシスイは考える。
「エニシ、入るぞ。」
障子を開けながら中に入ると、また一心不乱に何かを書いていた。
エニシの周囲には、丸まった紙屑が幾つか落ちている。
確かに、ここだけ見ると母が心配するのも頷けた。
今まで、集中して何かをする、という事がてんで駄目だったのを知っているだけに、どうしても異様に映ってしまう。
それに、頭を打ってからエニシの性格そのものが少し変わったようにも思う。
シスイはエニシの後ろに回ると、彼女の手元をそっと覗き見る。
どうやら手紙を書いているらしい。
「今度は何を始めたんだ?」
「どわっ!」
シスイが声をかけると、面白いくらいにエニシの体が跳ね上がった。
「…お前は仮にもアカデミー生だぞ?」
忍が後ろの気配に気づけなくてどうするんだ、とシスイは呆れ返る。