第12章 ここが人生の分岐点だったのかも…
「虎達がとても懐いていると聞いてね。君も聞けば楽しそうに面倒を見ていたそうじゃないか。」
「えぇ、まあ…。」
「どうだい?私の屋敷で虎達の専属になる気はないかい?」
「う、うーん…。」
確かに猫は好きだし、あの子達もとっても可愛いんだけどねぇ。
でも、忍の道を捨てるのにはまだ色々とやり残したことがあるからなぁ…。
「まぁ、すぐにとは言わないが、考えてみてくれたまえ。」
「はい…。」
私が返事をすると、戻って行った付き人さんが主人に何事か囁いた。
「さて、それでは私はこれで。悪いが今日は来客があってね。ゆっくりと寛いでくれたまえ。」
その人が立ったので私達も全員立ち上がり、会釈をして見送った。
「はあ〜…。何なのよ、あの偉そうな態度。」
「家主なんだから。それもご親族様なんだから当然だろ。」
アンコさんがだらんと椅子にもたれて、ライドウさんがさもありなんと言う。
「で、雇用契約書だっけ?」
隣にいたライドウさんが私の手元を覗き込む。
「あー。お世話係にならないかってやつです。」
はい、と契約書の一枚目を渡すと、どれどれ、とみんなが集まって覗き込む。
「舐めてんのかしらねぇ。忍に向かって女中の引き抜きなんて。」
「忍の掟なんて知らないんだから仕方ないんじゃないか?」
「独特の制約だもんな。里抜けはしてはならない、なんて。」
「だからって…」
どこまでも続いていく三人の会話を他所に、私は細かい文字を順に追っていく。
難しい言い回しが多いけど、要は住み込みでの労働で決まり事が何で…どうのこうのああのこうの的なこと。
ふーん、と小さく呟きながら進めていくと給与のことが載っていた。