第12章 ここが人生の分岐点だったのかも…
「うっひゃ〜…。」
部屋に飛び込むと同時に目に入り込んでくるのは、滅多にお目にかかれないような宝石の山。
もとい、ご馳走の群れ。
…これもちょっと違う?
「…アホ面になってるぞ。」
後ろから入ってきた兄ちゃんに言われて、じゅるっと小さく唾を飲む。
「仕方ないじゃん。だって見てよ、これ。」
「もう見た。」
「こんな”宝石箱や〜”な食卓、見たことある?」
私は初めてよ。
「宝石箱って…。まぁ、合ってると言えば合ってるか…?」
皿が…だの、花瓶が…だのとぶつぶつ言ってるから、お値打ち物の食器類を使ってるんだろうな。
「おやおや、まだ席に着いていなかったのかい?さあ、晩餐の時間だよ。」
後ろから声がしたと思ったら、知らない人達が颯爽と私達を追い越して、さっさと上座に着いた。
いきなり現れてそう宣うくらいだから、きっとこの人が家主なんだろうな。
一人は煌びやかな衣装に手入れの行き届いた長い髪。
付き添う様に傍に立つのは、これまた地味だけど質の良さそうないい所の出だなって分かる出で立ち。
「ほら、早く。こっちこっち。」
ライドウさんとアオバさんが焦った様に手招きする。
あれを見るに相当なお偉いさんとみた。
私達は言われるままに急いで席に着く。
「改めて。今日は私の虎を保護してくれてありがとう。これは心ばかりのお礼だ。存分に味わってくれたまえ。」
「ありがとうございます。」
その言葉に年配者三人が軽く頭を下げたので、私達もそれに倣って頭を下げた。
「ではこの出会いを祝して、乾杯。」
手元のグラスを迷いなく掲げて乾杯の音頭を取り、私達も慌ててそれに倣う。
それを皮切りに食事が始まった。
が、付き人さんが私の所まで来て、何やら書類が入った封筒を渡してきた。
「これを。旦那様からです。」
「は、はあ…。」
何これ。今開けていいの?
目で伺うと、どうぞ、と促される。
私は頭の上にいっぱいの疑問符を乗せながら膝の上で封筒を開け、中の書類を引っ張り出した。
「雇用、契約書…?」
ざっと読んだ感じ、あの子達のお世話係の仕事らしいけど…。