第8章 宝の持ち腐れ…は、まずいよね
イタチは着替え終わると、身を綺麗に整えて居間に戻る。
そして、襖に手をかけたところでぴたりと止まった。
中から聞いた事のない歌が聞こえてきたからだ。
里の中でも外でもそのメロディに聞き覚えはない。
少し切なくなる様な物悲しい言葉が連なるのに、その音は淡々と、聞き様によっては爽やかな曲調になっている。
聞く者の印象によく残るのだ。
ー一体どこの歌なのだろう…。
不思議に思いながらも聞いていると、その歌が突然途切れた。
「やっぱ興味ないか。」
どうやらサスケに歌い聞かせていた様だった。
だが、エニシの歌に興味を持たないサスケに彼女は歌うのを止めてしまったらしい。
そして、また別の歌を歌い始める。
どうやら童謡に戻った様だ。
イタチは先程の歌が気になりつつも、それを表に出す事なく、襖を開ける。
「お。にぃにが戻って来たよ。」
エニシがサスケの背をぽんぽんと叩くと、彼はパッと嬉しそうに顔を輝かせてイタチが入ってきた方を見る。
「にぃに!」
舌ったらずに声を上げ、サスケはよちよちとイタチの方に手を伸ばしながら歩いていく。
イタチは嬉しそうに少し顔を綻ばせて、弟を抱き留めた。
エニシはその様子を少し困った様に笑いながら見ていた。
イタチはサスケを抱き上げるとエニシに歩み寄る。
「ありがとう。母さんの代わりに礼を言う。」
イタチがそう言うと、エニシは嬉しそうにはにかんだ。
「どういたしまして。」
可愛いらしい笑顔だとイタチは思う。
年相応のこちらが明るくなる様な…。エニシはそんな風に笑うのだな、と。