第6章 偉人のまねをしてみましょう
呼びかけを始めてすぐくらいに、イズミちゃんが走って来た。
「こんにちは!エニシさん、今日も…。」
言いかけて途中で顔を硬らせた。
トウキがいる事に気づいたらしい。
イズミちゃんは目を瞠りながら私とトウキを見比べる。
それが気に入らなかったのか、トウキは眉を顰めてイズミちゃんを睨み返した。
「…何だよ。」
「おいおい…。」
そりゃそういう反応されるでしょうが。
やたら喧嘩を売るなよ…。
「昨日、散々馬鹿にして帰ってったじゃん。それが原因だと思うよ?」
私はやんわりと止めに入る。
「俺はバカにしてねぇ。」
まぁ、確かに。
トウキは終始黙って聞いてたかな。
やっかんできてたのは、主に愉快な仲間達だし。
私は、小さく肩を竦めるとイズミちゃんに向き直った。
「この子ね、同じクラスのトウキっていうの。今日から手伝ってくれる事になったんだよ。」
イズミちゃんにトウキを紹介すると、彼女は何とも言えない顔でトウキを見る。
「あ、あの…。二人はいつも喧嘩してるって噂があるんですけど…。仲が良かったんですか?」
「全く仲良くはないよ。」
「おい!」
イズミちゃんの質問に、私が速攻で否定すると、これまた速攻でトウキからツッコミが入った。
「いやいや、仲良くなんてなかったじゃん。なんなら今さっき仲良くなったばっかじゃない?いつも喧嘩売られてばっかだったし。」
今までを振り返っても仲良かった記憶は一つもない。
「売った覚えはねぇ!果たし状出しただけだろ!?」
そんな食ってかかられても。
「普通、果たし状は喧嘩売った事と同じじゃないの?」
「全然違げぇよ!」
トウキの答えに思わず脱力した。
「えぇ〜…。同じじゃん…。」
「果たし状は、正式に決闘を申し込むって意味だろ!」
「何が違うのよ、それ。あんたの感覚分かんないわ〜。」
私がありのまま答えると、トウキは癇癪を起こした様に髪を掻きむしった。
「とにかく!あれは喧嘩じゃねぇからな!いいな!」
トウキに怒りの形相で詰め寄られて、思わず仰け反った。
「分かった、分かったから。」
どうどう、とトウキを宥めると、ふん!とそっぽを向いてしまう。
扱いにくいわ〜。