第6章 偉人のまねをしてみましょう
翌日、同じ場所でまた演説を始めると、トウキが近づいて来た。
私が無視したまま呼びかけを続けていると、トウキが後ろに立てかけてあるプラカードを持ち始めた。
「…何やってるの?」
私がそろりと聞くと、トウキはぶすっとしたまま、
「俺も手伝う。」
と返してきた。
いやいやいや、意味が分からない。
何で手伝うの?
私が無言でトウキを見ていると、段々と怒りの形相になり、
「悪いか!」
と怒鳴られた。
悪いわ、と返してやりたかったが、何となく言わないでおいた。
顔を少し赤くして怒鳴られても、ねぇ?
恥ずかしいならやらなきゃいいのに、ってかんじ。
「何で手伝う気になったの?」
若干呆れ気味に返すと、ふいっとそっぽ向かれた。
「…気分だ。」
「そうかい。」
まぁ、何か企んでるんじゃなきゃいいや。
「トウキはさ、うちはの事どこまで知ってんの?」
「昨日、ビラ持って帰って読んだ。」
「じゃ、プラカードの意味はOK?」
「写輪眼と万華鏡写輪眼だろ?」
ほんとに読んできたんだ…。
ちょっと複雑だ。
なんだかなぁ。最も読まなそうな人が読んできたなんて、配ってみるもんだねぇ。
「…うちはの殆どは万華鏡なんか開眼してないし、写輪眼で九尾を幻術にかけて引き摺り出すなんて不可能って事を呼びかける。つまり、うちは一族が九尾事件に関わったという嫌疑を真っ向から否定するものなんだけど…。」
私はそこで言葉を切り、トウキを真っ直ぐに見る。
「ほんとに手伝うの?」
この呼びかけに加担すれば、うちはではないトウキの心象は悪くなる。
進んで白い目で見られる事を選ぶって事だ。
何の関係もないトウキにはリスクが大きい気がする。