第2章 これからどうしよう
夕暮れが過ぎ、星が瞬き始めた頃、シスイは家に帰って来た。
「ただいま。」
シスイが玄関を開けると、母が心配そうな面持ちで顔を出した。
「おかえり。…ねぇ、あの子昼間頭を打ったって言ってたけど、大丈夫かしら。」
シスイはエニシのことを言っているのだと感づいた。
「…何か変なのか?」
やっぱり、という言葉を既の所で呑み込んだ。
そう言ってしまえば母が酷く心配するのは目に見えている。
「何か、いつもと様子が違うのよ。」
母は心配そうに部屋の方を見た。
まずは、エニシの様子を確認しなければ、とシスイは思う。
でなければ、良いか悪いかの判断は出来ない。
彼は黙って家に上がると、エニシの部屋へと向かう。
エニシの部屋はシスイと共同の部屋だ。
入って手前にシスイの机や棚があり、その対角の位置にエニシの机と棚がある。
その部屋の障子を静かに開けると、エニシが一心不乱に何か書いているのが目に映る。
「…エニシ?」
いつもと違う様子にシスイは酷く戸惑った。
エニシは勉強や訓練があまり好きではない。
おっとりしていてマイペース。
忍には向かないのだろうと、そんな風にシスイは思っていた。
だが、目の前にいるエニシはいつものエニシには見えない。
まるで違う何かがエニシに取り憑いたようだ。
「何、してるんだ…?」
恐々聞くと、エニシの手が止まりこちらを向いた。
「あ、お帰り。あれ、もうそんな時間?」
エニシは、けろりとしてシスイに声をかけると、壁に吊るされている時計を見遣る。
次いで、ぐぅーっと腕を伸ばして体をほぐすと立ち上がった。