第1章 キス/尾形・現パロ※
『やっぱり私の事口説こうとしてません?』
私は冗談のつもりで言った
彼も冗談で返してくれると思っていたが
予想外の流れを作ってしまう
彼は手に持っていた缶ビールを
ソファとテレビの間の
ローテーブルに置くと
体をこちらに向けて手を腰に回し
グイッと顔を近付けてきた
「…口説いたら、俺に堕ちてくれるか?」
ドクンと心臓が跳ねた
彼の低く甘い声が耳に残る
これは予想外だ
飲まれそうになる雰囲気を
消し去る様に缶チューハイを
ローテーブルの上に置き
腰に回された腕を
引き剥がして彼の両手首を
ぐっと掴んだ
息を深く吸う
『現行犯逮捕です』
「俺はまだ何もしてねぇ」
『エロい雰囲気出しましたー
言っとくけど本気でセックスはしませんよ』
「キスは?」
『ダメです』
「さっきしようとした癖に」
そう言われてシャワーを浴びる前の
事を思い出した
自然と目線が彼の唇へと向かう
『さっきのは気の迷い』
「俺はしたかった」
目線を上げると
彼と視線が絡まる
少し熱を帯びた瞳の奥は
やはり寂しげだった
また雰囲気に飲まれそうになる
「なあ…」
彼は私の肩に顔を埋めてきて
思わず掴んでいた両手首を離して
彼の体を受け止めた
彼の髪から
私と同じシャンプーの香りがする
彼の腕が私の背中に回り
私も自然と彼の背中に腕を回した
「キスしたい」
『酔ってるんですか』
そう言えば肩口で顔を横に振る彼
『寂しいんですか』
その問いには顔を横に振らない
私は片腕を彼の頭に伸ばし
髪を撫でた
まだ湿っている髪は
柔らかかった
『キスはしませんよ、
…もう寝ましょうか』
全然飲んでないけれど、
お酒を飲む気分じゃなくなった。
かと言って何かしたい訳でもない
彼は顔を上げて諦めたかの様に
コクリと頷いた
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