第1章 キス/尾形・現パロ※
『ありがとうございます』
と、社会人生活で癖付いた礼を口にし
グラスを持ち
中の液体を口に流し込んだ
ふと腕時計を見ると
深夜0時を指すところだった
明日は休みだ
気兼ねなく飲める
一度アルコールが入り
楽しくなってしまうと
つい加減が分からなくなる
カウンターに片手で頬杖をつき
目の前の男性を見つめた
『お兄さん、彼女は居るんですか?』
また一瞬目を丸くしたが
すぐに元の顔に戻り
次は口角を上げた
「ははっ…俺を口説こうとしてるのか?」
彼は敬語を崩し乾いた笑い方をした
私は何も言わず彼を観察する
読み取りにくい表情
だが少し瞳の奥が寂しげだと感じた
『彼女、居ないでしょ?』
再び目を丸くする彼
「何故そうだと言い切れる?」
『寂しそうだから?』
何となくとか、そんな気がする
と根拠が無いので疑問系で
聞き返した
するとまた乾いた笑いを零し
「…なぁ、今夜家に泊めてくれよ」
と、ぶっ飛んだ事を言ってきた
『…ふはっ…お兄さん
私を口説こうとしてる?』
何をどう思ったら
家に泊めて欲しいに辿り着くのか
意味が分からない
それが面白くて声を上げて笑った
『はー、笑った
お兄さん、そんなに寂しいのか
いいよ、家この近所だし
その代わりお酒、付き合ってよ』
どういう流れで
こうなるのか本当に
意味が分からないが
私は楽しく
お酒を飲めたらそれで良かった
人の事を言える立場じゃないけど
私も彼氏なんて何年もいないし
家に帰れば一人だ
案外私も寂しいのかもしれない
だから何となく、
その場のノリと勢いに
身を任せてしまった
.