第2章 距離
千尋side
「俺がまだ遥のお腹に居なかった頃の話からになる……」
その後、幸希くんはゆっくり話してくれた。
遼さんが実は元ヤクザの頭だったこと。
それから遥さんと遼さんが出会ってから起きた事件。
特に幸希くんを妊娠してからの事がかなり辛かった。
愛する人との子を身篭ったまま、性的暴力や悪性の薬物を無理やり注入されたこと。
その影響で、幸希くんを出産してからも偶に遥さんは精神的に病んでしまうことがあったらしい。
それは幸希くんが小学生まで続いたことも。
「この傷。遥に幼い頃付けられたんだ。」
袖を捲って僕に見せてくれた。
5cm程の切り傷。
今は塞がっているけど跡が残っている。
当時深い傷だったんだろうか。
「『あんたは遼くんとの子じゃない!』って、包丁持って馬乗りになって俺の腕を切りつけてきた時は本当に死ぬかと思った。遥のあんな顔、もう見たくない。自分の実の親にゴミを見るような目で見られるのって結構しんどくて。それからか、人に触れられるのが怖くなった。」
『触るな』って言ってたのはそれが原因だったのか。
幸希くんも相当辛かったんだろう。
僕なんかよりもずっと。
「それでも叔父さんが俺の事守ってくれて、その時叔父さんが駆けつけてくれなかったら今頃死んでたかもしれないし。遥もきっと今みたいに笑っていなかった。だから感謝してる。」
叔父さんの話をしている幸希くんは見たことない可愛い笑顔だった。
唯一尊敬している人なのだろうか。
1度会ってみたい。
「こんな事があったけど、俺は遥の事嫌いじゃないし寧ろ命懸けで守ってくれた事に感謝してる。遥は何も悪くない。」
遥さんの事が大好きなんだって事が伝わってくる。
僕も遥さんのこと大好きだ。
「……話してくれてありがとう。幸希くんも大変だったんだね。僕何も知らなくて……話したくなかったよね……ごめん。」
「いや、いい。誰にも話せない方も辛い。歳が近い奴に聞いてもらうと少し楽になる。今まで誰にも話せなかったし。……運命の相手がお前でよかった。」
「え……」
「話しやすい。なんでだろうな。」
「あ、はは……なんでだろうね……」
ドキッとしちゃった。
きっと深い意味はないんだろう。
一人の人間として僕を見てくれてるんだ。
「遅くなったな。帰ろう。」
「うん。」