第2章 距離
幸希side
「ねぇ、幸希くん……少し……話してもいい……かな?」
「なに?」
千尋がモジモジしながら俺の横で話し始めた。
今は周りに誰もいない。
HRが始まったのだろうか、学校全体が静かだ。
「僕達、運命の相手な訳で……その……これから先、僕と幸希くんは……//」
顔を赤く染めながら千尋が話す。
会ってすぐに運命だと気づいて好きになったのだろうか。
それともそうすべきだと感じたのだろうか。
俺にはこいつに好意なんて全くない。
出会った時に一瞬胸は高まったが、今思えば本能的に千尋を運命の相手だと察知したからだとわかる。
「……なに?俺の事好きになったの?」
「えっいやっ……その……//」
「ごめんけど、そういうのは困る。お前と付き合う気もない。」
しっかりと伝えておかないと後で面倒になる。
その気にさせるのもコイツの為にはならない。
「え……そ、そうだよね!うん!ごめん!」
「第1に、俺Ωが嫌いなんだ。」
「え……どうして……」
どうしても何も……俺はαでΩの発情期に毎回惑わされる。
俺には好きな人もいる。
好きな人以外でそんな事はしたくない。
Ωの誰彼構わず尻尾を振る姿が1番嫌いだ。
発情すれば欲を満たすことしか考えなくなる。
「……お前には関係ないだろ。」
「うん……そう……だね。」
「高校生の間までは最低限お前の『運命の相手』として振る舞う。そうすればお前も襲われる事が減るだろ。じゃないと遥も煩く言ってきそうだしな。……遥にはお前とは『そういう関係』だって伝えておくし。」
千尋はその言葉を聞いて立ち止まってしまった。
振り向くと目を点にして俺を見つめていた。
そして一瞬にして嬉しそうな表情になった。
フラれたのにおかしな奴だ。
「うんっ!ありがとう!幸希くん!」
ちゃんと笑えるんだな、こいつも。