第10章 奇襲
老婆は赤子を見ながら、優しく微笑んだ。
「名は決めたのか?」
宿儺にそう聞くと、宿儺は「そうだな…」と言い、少し悩んでから言った。
宿「…悠(かなた)」
『どんな意味なの?』
赤子を抱く宿儺に、あすか が聞いた。
宿「俺は あすか と出逢って変わった。
この子には あすか のようにおおらかになってもらいたい。
そして、人との繋がりを大切にして過ごしてもらいたい」
『悠…。いい名だと思います』
あすか は赤子の髪を優しく撫でた。
「ケヒヒヒ、悠。良い名ではないか。
お前は今日から、悠と言うそうだ」
老婆は悠に優しく話しかけた。
幸せな時間(とき)。
独りでは感じる事の無かった感情。
悠が泣いていても不思議と笑顔になってしまう。
今まで抱いた事のない暖かな感情に、宿儺は また1つ、護りたいと思える者が増えた。
悠が無事に生まれ、心配していた呪術師や呪霊の攻撃も無く過ぎていく日々。
あすか の おびやあけも過ぎた頃、老婆は自分の屋敷へ戻ったが、宿儺は連日依頼が入り、出掛ける事も増えていた。そして、宿儺は少しだけ違和感を覚えていた。
何も知らない あすか は『こんな時もあるよ』と笑っていたが、夜間問わず悠の世話をしていれば自然と寝不足になるわけで。
宿儺が出掛けてから、こっくり こっくりとうたた寝している あすか の様子を裏梅は見ていた。
裏梅も出来る限り悠の世話に協力したが、母乳が主食の悠には あすか が必要だった。