第10章 奇襲
「おい、奇襲をかけるなら今だろう」
少しイラついたように言う誰かに、問われた相手が答えた。
「今は駄目だ。産後直後は女の能力が高まってるからな。
それに、今は まだ子が生まれた喜びを味わわせてやろうではないか」
「お利口さんの考える事は分からんな」
舌打ちをし、その誰かは その場から去っていった。
「私の計画に参加できるだけ喜べ阿呆め…」
独り言のように呟いた人物は、もう一度だけ宿儺の屋敷を見、その場を後にした。
老婆から体を休めるように言われた あすか だが、産後で気が高ぶっているのか 目を閉じても休む事は出来なかった。
あすか の元に水を持ってきた裏梅は、起きている あすか に「お疲れ様でした」と声をかけた。
「可愛い男の子ですね。休まなくて良いのですか?」
『気が高ぶってるのか なかなか休めなくて…。
赤ちゃんは?』
あすか に聞かれ、裏梅は「御婆と宿儺さまが見ていますよ」と教えてくれた。
そして、思い出したように裏梅は笑った。
「御婆から赤子の世話について習っている宿儺さまは、ぎこちない動きをされていましたよ」
『へぇ、見てみたいなぁ』
ふふ、と あすか は笑った。
1週間もすれば、はじめは ぎこちない動きだった宿儺も少しずつ赤子の抱き方も自然になり、あすか を気遣いながら赤子の世話をした。
食事や洗濯などの家事は裏梅が行い、老婆は産後の あすか の体調を確認した。
「産後の回復も順調だな。お乳の飲みも良い」