第7章 過去
加茂憲倫から呪術を教えられていた時には感じなかった暖かい感情が少しだけ生まれた瞬間だった。
老婆は医術師と言うだけあり、反転術式を得意とした。
老婆から反転術式を教わったり、日常生活を教わった。
上手くできれば頭を撫でられ、間違った事をすれば頭を叩かれた。
その度、違う表情をする老婆につられ、宿儺も少しずつ表情が穏やかになっていった。
呪霊付きの反転術式を習得した時には、老婆は とても喜んで頭を撫でた。
その時、宿儺は ふいに「ケヒ」と不器用に笑った。
「宿儺、今 お前 笑ったのかい?」
老婆は驚いたが、宿儺自身も自分が笑える事に驚いた。
「もっと笑えば良い」
宿「…面白くもないのに笑えるか」
宿儺はプイとそっぽを向いたが、その表情は照れているように見えた。
少しずつ人間としても成長してきた宿儺を、加茂憲倫は黙って静観していた。
「御婆、宿儺は人間らしくなった。
そろそろ返してもらおう。
こちらへ来い、宿儺」
老婆と宿儺が過ごす部屋に訪れた加茂憲倫は そう言って、いきなり宿儺の腕を引っ張った。
「お止め下さい、憲倫さま」
老婆は宿儺を引き留めるが、加茂憲倫は宿儺の腕を引き、部屋を出て行った。
宿儺は困惑したまま老婆を見ると、老婆は寂しそうな表情(かお)をしていた。
宿儺は、なぜ老婆が寂しそうな顔をしているのか分からないまま、加茂憲倫に連れられて行かれ、感情の読み取れない加茂憲倫から呪術を学んだ。