第7章 過去
夜には老婆の部屋に戻ろうとしたが、宿儺が老婆に懐くのが気に入らなかった加茂憲倫は宿儺に部屋を預けた。
宿儺と老婆の接点が希薄になるように仕向けたのだ。
そして加齢を理由に老婆を加茂家から追い出した。
宿「当主さま、最近 御婆を見かけませんが、御婆は元気でしょうか?」
老婆を気にかける宿儺に、加茂憲倫は冷たく言った。
「御婆は歳を取った。
余生を自由に過ごせるよう、自由を与えた」
加茂憲倫の言葉に宿儺は鈍器で殴られたようなショックを受けた。
宿「…何処に行ったのですか?」
「さぁな…。
それより宿儺、集中しろ。呪力が乱れているぞ」
宿儺の呪力が乱れた理由を知りながら、加茂憲倫は呪術の訓練を止めなかった。
「アイツだ」
「なぜ当主さまはアイツばかり贔屓(ひいき)するのだ」
「当主さまから直接呪術を学ぶなんて」
ひそひそと声がする。
宿⦅ 学びたくて学んでいるのではない…
俺は御婆と居た時のほうが気持ちが楽だ…
何も知らないくせに… ⦆
宿儺はまた心を閉ざした。
加茂の弟子達の、ひそひそ話は聞き飽きた。
何も感じず、聞き流すようになった宿儺の耳に、小さな声で誰が言ったか分からないが「出て行けば良いのに」と聞こえた。
宿⦅ そうだ…
この家を出れば良いのだ… ⦆
もともと何も自分の物を持っていなかった宿儺は、皆が寝静まった頃 静かに屋敷を出た。