第7章 過去
「その子を見て下さい。
泣きも笑いも、怒りもしない。
感情が育っていないではないですか」
「それがどうした」
「呪術には感情が大切だと私(わたくし)は思います。
その子は しばらく私が預かります」
加茂憲倫を睨み返しながら、老婆は半ば無理矢理、加茂憲倫から宿儺を引き離した。
☆ ☆ ☆
「宿儺、人を恨んではいけないよ」
老婆は口癖のように毎日宿儺に言い聞かせた。
「お前が何を考え、どう感じているのか口に出して言ってごらん」
宿儺の頭を優しく撫でながら、老婆は宿儺が自分から話すのを待った。
ある日、あまりにも毎日毎日 頭を撫でるので、宿儺は老婆の手を払い除け、何も言わず老婆を キッ と睨んだ。
老婆は驚いたような表情をしたが、すぐに ケヒヒヒ と声を出して笑い出した。
宿儺は困惑したまま、老婆の顔を黙って見つめた。
「ケヒ、ケヒヒヒ
宿儺、感情が出せるようになったなぁ」
そう言うと、老婆は やっぱり宿儺の頭を ぽんぽん と優しく叩いた。
宿「何なのだ!」
初めて聞く宿儺の声に、老婆はまた笑った。
「お前、人間らしくなってきたなぁ」
眉間を寄せながら、意味が分からない、と言う顔をする宿儺に老婆は、
「良い良い。意味が分からなくとも良いのだ。
お前には ちゃんと感情がある。
これから いろいろな感情を覚えていけば良いのだ」
と言った。