第8章 その痕は…
とにかく早く部署での事を終わらせて研究室に戻ろうと早足で各デスクを回って歩く
角刈りの刑事へは書類を渡し、
「赤いですよ?」
リーゼント刑事へはUSBを渡し、
「痕になってますけど、どこかにぶつけました?」
と、どう隠そうとも次々と会う部下達に指摘される
リュウはいっその事マフラーでも巻いていたいと真冬でもないのに思う程気にしてしまっている様だ
そして最後の書類を持って桜谷のデスクへと足を運ぶと…
「リュウさん、アレの痕隠れてないですよ!?」
と包み隠さず指摘され、リュウの顔は真っ赤に染まるのだった
「桜谷ァァァァァ!!!」
「か、風見さんっ!!!」
神風の如く現れた風見は真っ赤になったリュウを桜谷から離すようにひょいっと抱き上げ、
「貴様後でどうなっても知らないからな…」
と、普段の風見からはあまり想像できないような地獄の底からの声で叱責し、リュウを脇に抱えて研究室へと向かった
「や、やば…風見さん怒らせちゃった…」
「桜谷…聞いてもらえてスッキリしたが、あの聞き方はダメだな」
「まぁでもこれで黒だってことはわかったんで桜谷お前には感謝してる」
「応援だけはしてやるから始末書頑張れ!」
魂の抜けた桜谷の肩を何人もの同僚が叩いた
***
「昨夜は色々あったのかと思いますけど…」
「今朝です」
「…今朝は色々あったのかと思いますけど、ちゃんと隠れるような服を着てこないとダメですよ」
「これでも一応確認して家を出たんだよ!」
研究室に戻ってきたリュウは今度は自分の鏡で首元を写し、風見はその隣で腕を組みしかめっ面でリュウを見下ろしている
「それに、あんなあからさまに照れていてはキスマークですと言っているのと同じですからね!?」
「う…そっか…平然と虫刺されを通せばよかったのか…」
しょぼくれるリュウに風見は大きな溜め息をつき、目線を合わせるようにその場にしゃがんだ
「まったく、仕事となれば人一倍頭はキレるのに、何故自分の事には疎いんですか…」
「何故でしょう…自分が一番知りたいです…」
ハハハと苦笑うリュウに風見はもう一度深く溜め息をついた
「とにかくこのままでは部下にも悪影響なので、服の調達に行きますよ」
「よろしくお願いします…」