第5章 公安本部自販機事件
「あのね、いつものカフェオレがなくなってて、仕方ないから似てるものって思ったんだけど、それが一番上の段で…届かなくて、買えなくて…」
泣きそうな素振りの子どもを装いながら話すリュウに、本当の事を知っている風見は「演技派…」と思った
「昨日業者が入ってたんすよね…」
「カフェオレがないのはリュウさんにはキツいですね」
カフェオレ好きで、疲れた時には絶対カフェオレでリフレッシュするリュウにとって、日課とも言えるこの自販機のカフェオレがなくなったのは相当ショックだったようだ
そしてそれに似たみるくコーヒーはあったものの、500mlペットボトルの為上段に設置されていて更に届かないという最悪が重なったリュウのテンションはかなり低めだった
「自分が押してあげますね」
「待て風見」
そこまで落ち込まなくても…と言う言葉を心の中に秘めた風見がみるくコーヒーのボタンを押そうとすると、また桜谷が風見を制止する
「子どもは自分でボタンを押したいもんです。ここはリュウさんに押させてあげよう」
見た目が子どもであっても中身が大人と思うと、何も知らない人の前での接し方が難しいので、周りからの『子どもはこんなだよ』といった様な助言はありがたかったりする
そっか…と納得する風見はリュウの背後に周る
「では…」
「えっ、いいよっ!?」
断る声を聞かず両脇を掴み、ひょいっとリュウを抱き上げる
こんな公安の廊下で刑事に持ち上げられる10歳の子ども…傍から見たらなんともイレギュラーな空間である
「廊下で騒がしいぞ」
「ふ、降谷さん!」
「零さ~ん…」
タイミングが良いのか悪いのか、廊下の向こうからどこか不機嫌そうな上司がやって来た
「一体何をしているのかな?」
ピキピキと効果音が聞こえてきそうな表情にヤバめな空気を察した桜谷
「じゃ、自分は先に戻りますっ!」
ささ~っとこの場を去って行くその姿を見て両手がリュウで塞がっている風見は「おいてかないでぇ~!」と心で叫ぶことしかできない
「ああぁぁあのっ!実は赫々然々ありまして!!」
「言い訳をする前に早くリュウを下ろしてもらえないかな?」
「はいぃぃぃ!!!」
上司の大切な人を宝物を扱う様に地面に下ろした