第5章 公安本部自販機事件
とある昼の公安本部の廊下を歩く風見と同僚の桜谷
午前中の事務処理を終え昼休憩となるこの時間に、他愛のない会話をしながらトイレから部屋に戻る途中であった
戻ったら昼ご飯が待っていると足取りも軽めである
「今日の昼飯は天使オススメの弁当を買ってきたんですよ~♪」
「自分も天使にオススメしてもらったおにぎりでね」
朝から昼が待ち遠しかったと言う桜谷に、腹の音を隠せず苦笑いする風見
そんな二人が廊下の角を曲がると、公安御用達の自販機の前で腕組みをしているリュウがいた
「ストップ!天使が何やら真剣にお悩み中だ」
桜谷に制止され、二人で曲がり角に身を隠す様に留まった
チラリと顔を覗かせリュウの様子を見る
「飲み物迷ってんすかね?」
「リュウさんならカフェオレと決まっているはずだが…」
声を掛ければ良いものを、二人はリュウの行動を観察し始めた
「決まったかな?」
上段まで手をピンと伸ばしプルプルと小刻みに震えるリュウの足元を見ると、ギリギリまでつま先で背を伸ばしている
「一番上は届かないのか…」
「つま先天使、可愛くないですか!?」
一生懸命腕を伸ばす姿に感動し頬に両手を当ててときめく桜谷
そしてリュウはピョンピョンと何度もジャンプをし始める
「なんですかアレ!仔うさぎですか!?」
「いや、なんだかもう可愛いを通り越した小動物としか…」
そのまま観察を続けていると、自販機の反対の壁まで下がり、じぃっと狙いを定めて「よーい、ドンッ!」と走り出すリュウ
助走をキメてジャンプをするも、二段目のディスプレイに思い切り平手が当たって敢え無く終了してしまう
「リュウさん惜しい!」
「今よーいドンって声に出てましたよね!?」
悶々とする風見と桜谷
リュウはというと、ついにしゃがみこんで頭を抱えてしまった
二人には聞こえていない様だが、「元の姿に戻りたい…」とぶつぶつ言っている
「そろそろ声かけます?」
「そうだな…」
なんだか可哀想に思えてきた2人は、たった今ここを通ったかの様に見せかけてリュウの前に姿を出す
「あれ、リュウさんどうかしました?」
「かざみさぁ~ん!」
飲みたい物がなかなか買えず相当ショックなリュウは救世主の登場に目を輝かせた