第19章 ただ私は竜ちゃんの過去の写真が気になっただけなのに【前編】
流石に普段起きる事はない蘭ちゃんも、竜ちゃんの大きな悲鳴とベッドから落ちた事で無理やり起こされた蘭ちゃんが不機嫌気味でノックもせずにズカズカと寝室へ入って来る。そして今の状況を目の当たりにした。背中くらいあるサラサラとした金と黒の長髪に、タレ眉タレ目な菫色の瞳が私と竜ちゃんを交互に見つめている。未だ眠そうな蘭ちゃんは不機嫌気味な顔をみるみるうちに引き攣った笑みに変わり竜ちゃんへと尋ねていた。
「え、何これ…どう言う事なの?てか、その女の子…誰?」
「俺にも良く分かんねぇけど…あの、責任取らせて下さいっ!」
「なんてまぁ…綺麗な土下座…」
責任取るだなんて、過去の貴方から聞けるとは思っておらず…それが微笑ましく見えてクスクスと小さく笑ったのである。
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「栞…?…はっ?何でアイツ居ねぇの?」
さっきまで一緒に寝てただろ?なのにどこにもいないから焦る、いや…でも抱き締めた感触はまだしっかりと残っているし、怖いと傷付いた様子で俺に縋って来たのも現実だった。なのにどうして今目の前から消える結果になるんだよ…疲れ過ぎて夢なのか現実なのか分からなくなって来た。そう勢い良くベッドから転がり落ちるように寝室から出た。
「食事の準備は普段通りしてあるし、栞の部屋の荷物もあるから…出て行った可能性は低いよな」
冷静に考えて、栞がどこかに行くという可能性は限りなく0に近い。だからきっと…1番想像したくはないが、自分の世界へと帰ってしまったのだろうかと思った。
「そっか…帰っちまったのか」
ずっと本心では帰りたいと、両親に会いたいと言って1人で泣いていたのは知っていたし…その事もあって俺自身も栞に対して恋愛感情を持たないよう誠実に接して来たつもりだった。