第12章 やっぱり俺が責任取るわ。
特に理由なんてなかった。兄である灰谷蘭は今日仕事で帰れないと言っていたし、自分自身も書類やら部下の躾やらに追われて漸く仕事が終わったのである。何か外が騒がしい、まぁ…俺には関係ないけど。そう路地裏を歩いて大通りを曲がる最中に何かが俺に勢い良くぶつかった。しかし体幹が良い俺は倒れず、目の前にいる奴が尻もちをついていた。てかどこ見て歩いてんだよ…お前このスーツいくらすると思って。そう苛立つように見下ろせば、ふわりとした滑らかな髪が揺れて顔を押さえながらも不安げにこちらを見上げるキラキラした瞳が俺の視線と絡み合った。
「いってぇな。どこ見て歩いて……んだ、ょ」
「ひっ、ぁの…す、すみません…っ」
「えっ、いや…大丈夫、えっ?はっ?女、の子?」
俺の苛立つ声に、ビクリと肩を震わせて悲鳴と共にすみませんと怯えて謝る1人の可愛らしい女の子に混乱する。何で女の子がこんな所に?女の子って男に囲われて外出れないはずじゃなかったか?いや、それより…華奢で小さな女の子が余りにも可愛過ぎて見惚れてしまい数秒間息をするのも忘れてしまう。するとバタバタと走り回る足音がこちらに近付いて来るのを耳にする。
「おい、さっきの奴どこに行った!」
「まだ近くにいるはずだ、くまなく探せ!」
「っ!」
その声に硬直させて、恐怖からかカタカタと体を震わせている女の子。アイツ等から逃げて来たのかと直ぐに分かるような、如何にも訳ありな雰囲気を持つ彼女は視線をあちこちに向けて今直ぐにでも逃げ出したいといった表情を浮かべていた。そんな彼女の手首を掴むと、聞こえるか聞こえないかくらいの小声で声を掛ける。