第9章 if…快適過ぎて逆に困る(1)
訳が分からないと混乱する私を他所に、蘭ちゃんさんは「痛くなかったか?良く頑張ったなぁ♡」と私の足を労るように優しく撫でていた。あぁ…とても酷い目眩を覚える、私はもしかするとどんでもない世界に来てしまったのかも知れない…そう明らかにカタギではない蘭ちゃんさんを見下ろして手の平で顔を覆い塞ぎ込んだ。
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「あ、お帰りなさい…蘭ちゃん」
「ただいま栞…今日もお利口にしてたかぁ?♡」
蘭ちゃんに連れられたマンションの一室に軟禁されて早1週間が経った。慣れというのは恐ろしいもので、蘭ちゃんも私に対して優しかったからと言う事もあり、私はもうすんなり蘭ちゃんへ心を開き信じられるくらいになっていた。ただ目の前の彼は私に大変過保護であり、随分怪我の具合も良くなって来たのだが、未だ何もしなくていいから先ず足を治す事だけに専念しろ?と猫可愛がりされてしまっていたりする。にこにこと笑って私に抱き着いて来る蘭ちゃんの背中に両腕を回してお帰りなさいとハグを返す、これが既に日課となりつつあった。
「そうそう…今日栞に紹介したい奴がいてさ」
「……蘭ちゃんにそっくり?」
蘭ちゃんの背中に隠れて見えなかったけれど、後ろからひょっこりと顔を出したお兄さんに目を丸くさせる。お兄さんもお兄さんで、私が蘭ちゃんの家に居候しているとは知らなかった様子で目を見開いて口元に手を添えていた。