第9章 if…快適過ぎて逆に困る(1)
「え、ぁ…ど、どうした?心配しなくてももう怖い思いはさせねぇから、蘭ちゃんが守ってやるからなぁ?」
「分からないっ…私も、なんでここにいるのか…わ、分からないのっっ…」
「えっと…つまり、記憶喪失…とか?」
違う、そう涙を流しながら左右に首を振る私を見下ろして困った様子で頭をかいている蘭ちゃんさんがいる。二進も三進も行かない状況で、蘭ちゃんさんはスーツの上着を脱ぐと私の頭へと被らせてから優しく丁重に横抱きで抱き上げて来た。流石に初めてのお姫様抱っこに混乱し泣いていた涙もピタリと止まった。
「へっ?」
「ずっとここにいても仕方ねぇし、先ず栞が落ち着ける場所に移動しようか」
「あの…私、歩けます」
「だぁめ♡怪我してるからなぁ?後、顔は隠しとけ?見付かるとまた厄介だし、変な連中から声を掛けられたくねぇだろぉ?」
そう蘭ちゃんに促され、私はスーツの上着を深く被り直した。キラキラと輝くネオン街をゆっくりと歩いて行く、蘭ちゃんさんの体へもたれ掛かりながら、未だに痛む足に夢ではなく全て現実なんだなと逃避するように目を閉じた。
ーーー
「もう上着取っていいぞ?」
「ここって…蘭ちゃん、さんのマンションですか?」
「そうだけど?まだ怪我が痛むだろ、先ずソファーに座ろうなぁ…」
最初蘭ちゃんさんのマンションへと案内されて、足の傷の手当をされた。割れ物を扱うような優しい手付きで処置されて、悪い人じゃないのかな。と私の中で少しずつ警戒心がなくなりつつあった。今から言えるだろうかと、相談するように私はぽつりぽつりと先程の事を話し始める。電車に轢かれてこの世界に来てしまい、何故か見知らぬ男達に追い掛けられていたのだと。そんな訳の分からない話しを蘭ちゃんさんはすんなり信じてくれた。
「それはまた災難だったなぁ…」
「信じて、くれるんですか…?」
「うん、信じるよ?栞見たいな可愛い子に出会えたの俺初めてだしなぁ〜♡」
「やっぱり信じてないでしょう…?」
「ん〜?信じてるって。だって…この世界の男女の割合って男が9で女が1だもん♡」
「はっ…?」