第10章 さよなら北の海
月の光が2人を照らしている。
ローはナデシコの月に照らされたそのシルエットをじっと見つめていた。
(綺麗な横顔だな…)
その今にも消え入りそうな儚い表情にローの心臓がキュッとなる。
「ローさん…」
「なんだ?」
「こんな事言うのも変かもしれないですけど
やっぱり少しこわいですね…」
ローは何も言わず黙ってナデシコの言葉を待つ。
「もし、あの子が生きてなかったらとかまた政府に捕まるかもしれない海に行くって思ったらちょっと…」
「だったら船を降りるか?
おれは構わねぇ。」
ローの言葉は誰が聞いてもトゲがあるのが分かる口調になった。本人すらも気づいていない何かが胸に黒いモヤを覆う。
「あ、そうじゃないです!ただ…
何もなくなった私がローさん達のお荷物になるかもしれないと思うと迷惑かけたくないから」
「いつ誰が迷惑だなんて思うんだ。
悪いがそれだったら最初から船に乗せてねぇよ。」
コツンと鬼哭で頭を小突いた。
ナデシコは小突かれたところを手でさすりローを見た。
ローはイタズラっこの悪ガキのように笑う。
「心配するな。その時は正式にウチのクルーになってもらうしな。おれは少し寝るから。
お前もなるべく早く寝ろよ。こんな時間だがな。」
コツコツと足音を鳴らし船内へと戻って行った。
「なぁ?船長あれってお気に入りとかそういう話じゃないよな?」
「あぁ。あれは多分、手放すつもりが毛頭ない感じがする。」
「だよなぁ…。でもナデシコはどうするか迷ってる感じだもんな。」
「これはこじれそうだ。」
2人の話を盗み聞きしていたシャチとペンギンが慌てて自分の寝る場所に戻ると座り込んだ。
そんなことは知らず、ローもナデシコも自分の寝床に戻り朝を待った。