第2章 ふたりぼっち
山を降りて村に行くとナデシコは母乳が出る母親がいないか探して回った。
「あぁ、そう言えばおはつさんが赤子を育ててましたよ?」
村の人におはつと呼ばれる女性のことを教えてもらい彼女を訪ねた。おはつに持ってきた物の中で欲しいものを譲るので自分の代わりに赤子に母乳をあげてほしいと頼んだ。
「あら?もらい乳?いいわよ?」
おはつはナデシコから赤子を抱き上げると自分の母乳を赤子に飲ませた。
「可愛いねぇ〜この子はなんて言うんだい?」
「えっと…名前ですか?」
「あぁ、そうだい。もし今後、私の乳で育つなら名前くらいは知りたいからね」
ナデシコは少し考えてから名前を呟いた。
「キチベエ…」
「ほぉ〜!キチベエか!いい名だね!
キチベエしっかり育つんだぞ!」
おはつの乳を飲み終えるとげふっとキチベエは満足したような顔をした。
それから10年が過ぎた。
キチベエはナデシコのお手伝いをしてくれる立派な男の子になった。
一緒に魚釣りをしたり、あまり顔を出したくない育て母の代わりに村で野菜や山菜を売ったりしてくれる。
キチベエが村に行くと号外号外!と瓦版が配られた。
「カカ?こんなもんが配られてたよ!」
キチベエが瓦版をナデシコに見せた。
それはおでんが死亡した記事だった。
「そう…おでん様が…」
キチベエに見えないように涙を流した。
やはりいつの時代も命あるもの生まれたらいずれ死ぬ。
その現実をナデシコは久しぶりに痛感するのであった