第8章 知らない感情
その日に見たことをローは仲間に黙っていた。
彼女が隠したいなら隠せばいい。話せるなら自分から話させる。
そう決めていた。
ローからは特に何も言う必要がない。
これはナデシコの問題であり自分が口出しする必要がないからだ。
「話さないんですか?」
「必要ねぇ。あいつらもバカではないし野暮なことは聞かねぇだろ。不老不死なんざ信じるかどうかも怪しいしな。怪我の治りだって人より早いだけだ。
それでも、お前が話すべき必要なことだと思ったらお前から話せばいい…。」
「……そうですね。」
ナデシコはどこかホッとしたような表情を浮かべる。それを見たローは1度部屋から離れようと扉を開けた。
そこにはペンギンが立っていた。
「今の会話、本当なんですか?不老不死って…」
「……聞いてたのか。」
「すみません。立ち聞きは良くないとは思ってたんですがつい立ち止まってしまいました。」
「不老不死かどうかはどうでもいいだろ。
あいつはあいつ。ただの女と変わんねぇだろ。
怪我の治りが人より早い…それだけだ。」
そう言うとローはスタスタと歩いていった。
ペンギンもそうっすね!と笑った。
ナデシコの耳にローの言葉が流れ込む。
あいつはあいつ
ただの女と変わんねぇ
その言葉に涙がうるうると零れた。
(ありがとう…そんな風に思ってくれて…)
こんな風に思ってくれたのはキチベエ以外では初めての事だった。
『カカはカカだから!』
幼き日の彼が笑った。自然と涙が頬を伝う。それは止めることが出来なく、ナデシコは涙が止まらなかった。
「あの子…死んでたらどうしよう…」
ヒクヒクと泣いているナデシコの隣にローが戻ってきた。ローは何も言わずに隣に来ると無言で頭に手を置く。
「……ローさん?」
「…死に場所はきっとある。そう焦ることもねぇだろ。
まずはそいつを見つけてから考えろ。」
ローの声は優しかった。