第8章 知らない感情
何かがバレたナデシコは目に涙が溢れてきた。それは恐怖から来る涙のようだった。
「なるほど…そういうことか。
ユイルの部下が言っていた噂話はこれのことだな。」
「……お願いします!このことは他言しないでください!
私、もう政府関係や研究所に戻りたくない!」
ローは彼女の傷跡を指でそっとなぞる。
どこか優しさを含んでいるその瞳がナデシコの目を見つめた。ローから優しさを感じて落ち着きを取り戻していく。
「ユイルの部下が言ったことは本当なんだな?」
ナデシコはゆっくり頷く。
「不老不死は本当なのか?」
「……はい。」
「そうか…。」
ローはゆっくり立ち上がると皿の破片を拾った。
それ以上は何も言わなかった。
「あの…何も思わないんですか?バケモノだったり
おかしいとは。」
「……特に思う必要がねぇ。世の中には腐るほどおかしな奴らだっているんだからな。不老不死くらいで驚かねぇよ。」
ローはそう言い黙々と破片を拾うとゴミ箱に捨てる。
ナデシコもローに習い、破片を拾った。
ふと、ナデシコはローの横顔をちらりと見た。
筋の通った鼻に彫りの深い顔、目つきは鋭そうだがどことなくその瞳の奥には優しさが溢れている気がする。
ローがナデシコになんだ?と声をかけた。
「いえ…あの…私そうやって言われたのあの人以外初めてで…」
「探し人のことか?」
「はい…。」
ナデシコはなぜキチベエのことを息子と言わずに隠しているのか自分でも分からなかった。
まだ言うべきではない気がする。それだけの理由だ。