第3章 東卍の危機
神社を後にして、アタシは自分の家路についた。
当然のように隣を歩く三途に軽く辟易してた気持ちも落ち着いて、まぁもういっかと好きにさせておく。
三途はこういうヤツだって、忘れかけてた……アタシは、初めて会った頃の三途を思い浮かべる。
東卍の中でも人一倍喧嘩っ早く、手のつけられない暴れ馬……女性に見紛うような綺麗な顔立ちなのに、口の両端には派手な傷痕があって、どこか浮世離れした雰囲気を持ってた。
東卍に入ったばっかで総長(マイキー)の側近になりたいと口走った怖いもの知らずで、アタシが伍番隊配属を勧めた時は参謀(アタシ)の側近になりたいと言った、不良らしく遠慮の無いヤツ。
伍番隊配属後はムーチョの下で不良なりの礼儀を身につけて、今では立派な副隊長になったけど……我が強いとこはあんま変わってない。
「ユウさん」
三途に呼ばれて、思い出に耽ってたアタシの思考は現実に戻る。
「ん?」
「オレの顔に何かついてますか?」
アタシが見つめてたからか、三途はフィクションでよく聞くようなセリフを口にした。
「切長な目が二つと不良らしい黒マスクがついてるよ」
おちゃらけて返した後、アタシは三途に「ジロジロ見てごめん」と謝った。
「ユウさんに見られるのは悪い気しないですよ。寧ろ嬉しいです」
「はいはい」
三途の言動を軽く受け流すと、今度は三途がアタシを見つめてくる。
「どうしてオレを見つめてたんですか?」
「え?うーん……美人だから?」
「………」
冗談を無視するのはヒドいと思う。
「……三途と初めて会った時の事、思い出してた。手のつけられなかった暴れ馬が、見事に型にハマったな〜って」
「あぁ、なるほど」
三途はマスク越しに自分の口元に触れ、クスクスと笑う。
今は隠れてしまってるし、しばらく目にしてないけど、アタシは三途の口にある傷痕を鮮明に思い出す事が出来た。
「三途は、覚えてる?」
「ハイ、もちろん」
アタシは、“あの時”と同じように両手をあげて、それぞれ立てた人差し指を自分の口の両端に当てて、三途へニッと笑って見せた。
──「その傷痕、牙みたいでカッコイイね」
「って言ったらブチギレられたんだよね」
「アレはユウさんが悪いですよ」