第2章 参謀の仕事
「…オイ、いい加減離れろ」
「あぁ、うん」
話したい事は話し終わったから、確かにもうくっ付いてる必要はないか。
アタシは信号待つのにバイクが停止したタイミングで、場地を抱きしめてた腕を解き、体を離してシートを掴み直した。
バイクが再度走り出し、風が肌を撫でる。
アタシの視界に映るのは、場地の広い背中と、風に靡く長い黒髪。
「…圭介、ホントに背ぇ伸びたよね。前までアタシやマイキーとどっこいどっこいだったのに」
「またその話かよ、何度目だ?」
「だって悔しいんだもん。小さい頃はなんならアタシが一番背ぇ高かったのにさー。今じゃ圭介のが10cm以上も背ぇ高くて、髪もロン毛にするし、昔と変わんないのなんて八重歯だけじゃん」
「ああ?」
後ろでブーブー文句言うアタシに、場地は挑発するように笑いながら「カッコイイだろーが」と言ってきた。
すごい自信、マイキーに負けてない。
「……そーだね。男らしく、カッコよくなったよ、圭介は」
いつもなら笑って返すトコだけど、今日のアタシは正直に答えたい気分だった。
「んだよ、調子狂うな……さっきのは笑うトコだろ」
「見た目って大事なんだよ。アタシが女っぽくして相手を油断させんのも、圭介みたいにイカつい見た目で相手を威圧すんのも、喧嘩の勝敗を左右する要素の一つになる」
「…ハッ、さすがは東卍の女参謀。女磨くのも喧嘩に勝つためかよ」
「当然!」
前向いてるから見えないだろうけど、アタシは場地へニッと笑う。
「参謀(アタシ)の仕事は東卍を勝たせる事!アタシが一番勝ちに貪欲じゃなくてどーすんのさ──」
──マイキーの女として、恥じなく生きていたいから。
最後の呟きに、場地から返る言葉はなかった。
もしかしたらゴキの排気音に掻き消されて聞こえなかったのかもしれない。
でも場地が、一層ゴキのエンジン吹かしてスピード上げるもんだから、アタシは身の安全を取るため、また咄嗟に場地に抱きつかざるをえなかった。
そんなアタシに場地は笑って、今度は「離れろ」と言ってくることもなかった。
◇◆◇◆
───数時間後
愛美愛主への宣戦布告を終えて、ファストフード店に行って遅い昼ごはんを済ませた後、場地に送ってもらいアタシは自分の家に帰った。