第2章 参謀の仕事
「オラ出発すんぞ」
そう言って愛機のGSX250E(ゴキ)に跨ると、アタシにメットを放ってきた。
アタシはそれをキャッチして、被ってベルト留めながら、場地の後ろに跨る。
「で、新宿のどの辺りだ?」
「大久保にある潰れたバッセン。愛美愛主の溜まり場になってンの」
アタシが伝えると、場地はゴキを発進させた。
「圭介、もっかい言うけど喧嘩はナシだからね?」
「なんだよ。ホントに宣戦布告する“だけ”か?」
「そう。“喧嘩は”ナシ」
今日下手なことして、8月3日の決戦が出来なくなったら元も子もない。
それに、今日は宣戦布告だけじゃなくて、他にもしなきゃいけない事がある……だから喧嘩はナシ。
アタシは、シートを掴んでた手を場地の胴に回して、彼の背中に体をくっつけた。
「!オイ──」
「聞いて、圭介」
体をくっつけたのは、これから話すことをあまり大きな声で話したくないから。
場地は文句を言おうとしてたけど、アタシのさっきまでとは違う真面目な声を聞いて、口を閉じた。
「パーの親友と、その家族、彼女を嬲ったのは、長内本人じゃない」
「!」
「長内が、自分の部下に命令してヤらせたんだ」
「つまり……長内以外に、実行犯がいるってことか」
アタシは頷いて、ギュッと場地に回した腕に力を込める。
「誰なのかは調べてもわかんなかった……だから、今日はそれを探りたい」
敵陣ど真ん中に女のアタシが出向けば、ヤツらは煽るか冷やかすか……少なからず反応する。
それを見て、判断する……堅気の女の子輪姦するようなクソ野郎共を炙り出してやる。
「……それで、今日はンな派手なカッコしてんのか」
「そ。夏らしく肌色多めの際どいコーデ、目の保養になるでしょ?」
アタシが「役得だね」と笑うと、場地は「蹴落とすぞ」と脅してきた。
「実行犯がわかったら教えろよ。オレが全員ぶっ殺す」
「8月3日に、ね。あと長内とはパーがタイマン張るんだから、そこは邪魔しないでよ」
場地も、パーちんと同じくらい仲間想いなヤツだから、今回の事に一等怒ってる一人だった。
今日一緒に来させたのだって、ただでさえ喧嘩っ早いコイツに大人しくしててもらうため、少しだけでも憂さ晴らしさせておきたかったから。