第10章 10月31日
半間が蹴りを受け止める抗力のまま、アタシは後ろに跳び退がって、半間から距離を取る。
わざと、自分の右手の小指を立てて見せた。
「残念、折ってやろうと思ったのに」
アタシがそう言うと、半間はプラプラと手を振ってニヤッと笑う。
「やっぱ簡単には捕まらねぇか」
半間はドラケンが相手してたハズなのに……
「何でアンタがここに?」
「──ユウ!!!」
ドラケンの声が聞こえて、アタシは半間を警戒しつつ、声がした方に目を向ける。
そこには、アタシと同じく芭流覇羅に取り囲まれたドラケンの姿があった。
次々襲ってくる芭流覇羅を蹴散らしながら、焦った顔してアタシの方に向かおうとしてくれてる。
「……なるほどね」
芭流覇羅の狙いは8・3抗争と同じ、副総長と参謀の各個撃破か。
より弱いアタシを先に潰した後、無数の隊員を相手にし体力を消耗したドラケンを潰して、東卍の軸を折る作戦……
そして、半間の目的は東卍を潰す事……どんな汚いマネも卑怯な戦法も躊躇いなく使ってくる。
「ドラケンとあのままヤり合っても良かったけどなぁ〜、こっちに“イイモン”が見えたからよ」
じっと、特攻服から晒したアタシの胸元を見つめ、半間は目を細めた。
アタシの浅い谷間見てんのか、それとも……上胸に刻んだ“コレ”か。
「それが、東卍の女の証か。やっとお目にかかれたなぁ」
アタシの上胸にあるタトゥーは、「卍」を象った紋(マーク)……東卍が掲げる旗印と同じものだった。
「アンタがコレ目当てに来たんなら、狙い通りで笑えるけど」
「あン?」
アタシが口にした「狙い」という言葉に半間はピクッと反応する。
アタシは、自分の上胸に触れて一つ息を吐いた。
このタトゥーは、マイキー達と東京卍會を結成して“最初の抗争”の後に彫ったもの。
当時、男のフリして戦う事も悩んだけど……アタシは結局、堂々と女として戦うと決めた。
「コレは、アタシが東卍の女として戦う覚悟の証……そして、敵(アンタ)を挑発する為のターゲットマーク」
「!」
「“アタシを狙って来い──返り討ちにしてやるから!”」
真っ直ぐ半間を見据えて、アタシは強気に笑って見せた。