第10章 10月31日
アタシの背中を蹴った男は、ナイフを取り出して見せつけるようにブンブンと振る。
「オラどうしたぁ⁉︎」
「……うるっさいなぁ」
喧嘩で武器振り回すヤツなんて、ステゴロに自信がないって言ってるようなモンだし、何も怖くないけど……
決戦の場に持ち込んでくる、その根性が気に入らない。
バッ ガガッ
アタシは姿勢低くして、男に向かって突っ込んだ。
男が怯んだ一瞬の隙に、アタシは左手で男の顎を右手で手首を掴み、同時に男の足を踏み付ける。
「い──でぇっ⁉︎」
掴んだとこを下から押し上げるようにして、足は動かさせないまま男をドサッと地面に倒した。
「「「⁉︎」」」
周囲の芭流覇羅が驚いて動かないのを良い事に、アタシはナイフを奪い取って男の喉元に突き付ける。
「なってないねぇ。ナイフの正しい使い方、アタシが教えてアゲル」
「ひっ!」
情けなく怯える男のその目を、アタシは強く睨み付ける。
「このまま刺されたくなかったら答えろ……」
その時
「場地圭介はどこにいる?」
「オレが教えてやろうか?」
すぐそばから、不気味な声が聴こえた。
ガシガシッ
「っ⁉︎」
何者かが、アタシの肩に腕を回して顎を掴んで来た。
反対の手では右手を掴んできて、アタシは力づくでナイフを手放させられる。
「よォ〜、“お姫サマ”」
顎の手で無理矢理顔を向けさせられれば、その男──半間修二と目が合った。
愉しげに笑う顔を見て、アタシは驚愕に目を見開く。
何で半間がここに…⁉︎
「この…‼︎」
アタシは半間の手を剥がそうと踠くけど、アタシの顎をガッツリ掴んだ半間に力を緩める気は無いらしい。
「ばはっ!逃さねぇよ?」
アタシの握力じゃ敵わない……そう察したアタシは、半間の目をじっと見つめて、
「祭りの時もアジト来た時も逃しちまったからな〜。これでやっと捕まえ──」
半間の手の、“小指だけ”を握り締めた。
「!おっと」
何かを察した半間は、反射的にアタシから手を離して引っ込める。
ゴッ
「!」
解放されると同時に、アタシは地面に手をついて半間に一発蹴りを入れた。