第9章 参謀の策略
翌日
しんしんと雨が降るこの日、アタシは一人で佐野家のお墓を訪れた。
買って来た花を活けて、線香に火を付けて手向ける。
墓石の前に蹲み込んで、手を合わせて、目を閉じた。
「真一郎……」
今日ここに来たのは、真一郎と話したかったから。
返事なんて返って来ないってわかってても、話したかった……一度思ってしまうと、居ても立っても居られなかった。
でも、何を話したかったんだっけ……マイキーのこと?場地のこと?一虎のこと?
「………」
考えてるうちにアタシは、“あの日”の事を思い出す。
脳裏に焼き付いて離れない、最悪の光景を……──
あの日……2年前の8月13日、アタシは真一郎が営むバイク屋に居て、真一郎の手伝いをしていた。
夜になると眠くなって、アタシは休憩室のソファを借りて眠った。
目が覚めたのは深夜……真一郎の声が聴こえたから、店の方に向かった。
──アタシは、間に合わなかった。
あの光景は、今でも鮮明に思い浮かぶ。
暗い店内、ポッカリと空いたショーウィンドウ、切られたチェーン、差し込む月明かりに照らされたCB250T……
バブの傍に人影、手前に真一郎の背中が見えて……それに近づく、もう一つの影と、その手にある凶器が見えた。
──「ッ、真一郎‼︎危ない!!!」
──「やめろ一虎あぁ!!!」
戦慄するアタシと、場地の絶叫が響く……それと同時に、
──ゴキッ
重い凶器が真一郎の頭を打つ、鈍い音が鳴った。
倒れる背中、広がる血溜まり、アタシは凶器を持った影を蹴り飛ばして、真一郎に駆け寄る。
だけど二度と、真一郎の目が開く事はなかった。
「う…ゲホゲホッ!」
込み上げてくる蟠りが、咳になって口をついた。
アタシは片手で口を覆って、墓石に向かって項垂れる。
あの日、アタシが──
「和月?」
「‼︎」
名前を呼ばれて、アタシは弾かれたように顔を上げる。
そこには、マイキーとドラケンの姿があった。