第9章 参謀の策略
「千冬」
アタシが名前を呼ぶと、千冬の目がパチと開いた。
右目にはガーゼが貼られてるから、左目だけだけど……
「ユウさん……迷惑かけて、スンマセン」
「ホントにね」
アタシは椅子を引き寄せて、ドカッと腰掛ける。
「昨日の今日で、何でノコノコ出向いちゃうかな」
「…スンマセン」
ジト目で言ってやれば、千冬はバツが悪そうにもう一度アタシに謝った。
……とは言ったものの、千冬が場地の呼び出しを断ったとしたら、そっちの方が異常だって思う。
「………」
「………」
アタシが黙れば沈黙する病室で、アタシは溜息を吐く。
場地とか芭流覇羅の事、色々聞きたい気持ちもあるけど、意識が戻ったばっかのヤツに聞くのは憚られた。
「もう動けそう?」
「あ、ハイ…もう元気っス」
「絶対元気ではないでしょ」ってツッコミが喉まで出かかったけど、言わずに飲み込んだ。
「動けるんなら帰るよ。いつまでもベッド塞いでたら病院に迷惑だから」
アタシは携帯を開いて、時間を確認しながら立ち上がる。
マイキーやドラケンにも連絡しなきゃ……
ガシッ
「ユウさん」
「!ん?」
アタシが踵を返すのとほぼ同時、千冬がアタシの手を掴んで引き止めた。
振り向けば千冬は起き上がった体勢で、真剣な顔して見つめてくる。
「場地さんは、裏切ってません」
「……は?」
千冬が口にした言葉に、アタシは目を見開く。
「場地さんは、東卍を裏切ってなんかいません!」
「アンタ、自分が何言ってるかわかって言ってンの?」
アタシは千冬の腕を振り解こうとしたけど、千冬は頑なに手を離さなかった。
「今日場地さんと会って、確信したんです」
「……圭介が、アンタにそう言ったの?」
「いいえ、場地さんは何も……でも、オレにはわかるんです。あの人のこと、ずっと傍で見てきたから」
「千冬……」
アタシは千冬の手を掴み、アタシの腕から剥がさせた。
真っ直ぐにアタシを見る、千冬の目を見つめる。
「──やっぱりアンタもそう思う?」
「へっ?」