第8章 不審の隊長
テールランプの明かりが見えなくなって、遠ざかる排気音が聞こえなくなるまで、アタシも千冬も動く事が出来なかった。
しばらくじっとしてたけど、先に動き出したのは千冬の方。
「立てますか?」
クルッと振り向いて、千冬はアタシに手を差し出す。
「…ん、ありがと」
アタシは、その手を掴んで立ち上がった。
動くとまだ蹴られた腹が痛むけど、いつまでもここに居るワケにもいかない。
「バイク、向こうに停めてるんで」
ペケジェーがある方を指差して、千冬はスッと歩き出す。
微かだけど、千冬の頭がフラッと揺れたのを、アタシは見逃さなかった。
どんなに平気なフリしたって隠し切れない程に、精神にダメージを受けてる。
当たり前か……他ならない、場地が裏切ってしまったんだ。
千冬が受けたショックは計り知れない。
ペケジェーに乗って、アタシ達はこの場から離れる。
「家まで送ります」と言ってくれた千冬に、アタシは「神社までお願い」と伝えた。
「そういや、ユウさんはどうやってバイクの場地さんに追いついたんスか?」
「ん?」
「あの道で、オレはてっきり場地さんは左に曲がるんだと思ったのに、ユウさんは場地さんが右に曲がっても全然驚いてなかったから」
「あぁ、それね…」
千冬に聞かれて、アタシは場地を追った方法を説明する。
「圭介がどっちに曲がるかなんて、アタシにもわかんなかったよ。ただ、千冬が左に曲がろうとしてるとこ見れば、圭介は裏をついて右に曲がると思った」
反射神経が良い場地は、急な方向転換も平気でやる……それはバイクの運転でも同じ。
そしてアタシが取った作戦は、鬼ごっこと同じだった。
「圭介を右の大回りする道に行かせて、アタシは狭い道を真っ直ぐ突っ切った。追いつけるかは賭けだったけど、圭介は千冬を撒いたと思って油断してたんだろーね。お陰で、ギリギリで追いつけたってワケ」
「はぁー、凄えっスね!走る速さも流石っスけど……あんな状況で、即座にそんな作戦思いつくなんて」
千冬は感心してくれたけど、アタシはどう返したら良いか分からなかった。
……結局、アタシは場地を止める事が出来なかったから。