第8章 不審の隊長
一虎は、訝しむような視線を場地に向ける。
「場地…まさか、ユウを傷付けたくねーとか言わねーよな?」
「違えよ。今ヤんのはつまんねーって話だ」
場地は、喧嘩を楽しんでる時みたいに、ニヤッと笑いながら答える。
「東卍に盛大に喧嘩売った芭流覇羅(テメェら)のことだ。どーせ、もっとデケェ舞台用意してンだろ?」
「………」
「それに──」
ザッ
その時、こちらに近づいて来る足音が聴こえた。
「場地さん‼︎」
足音の主は、千冬だった。
「場地さん、ユウさ……」
千冬の目は最初に場地を見て、次にアタシと一虎を捉える。
「その人に何してンだテメェ!!!」
「チッ」
千冬が一虎に殴りかかり、一虎はそれを躱した。
手は乱暴に髪から離れて行き、アタシはやっと解放された。
「あーあ。イイトコだったのに、邪魔が入っちまった……つか、誰?」
「東京卍會壱番隊副隊長・松野千冬だ!」
ピクッと、一虎の眉がわずかに動く。
「壱番隊…?」
千冬は、アタシを庇うようにしながら目の前の一虎を睨んだ。
そのまま、アタシに小声で聞いてくる。
「ユウさん…コイツは?」
「……芭流覇羅のNo.3だよ」
アタシは、千冬の問いには今の一虎の肩書きだけを答えた。
一虎との因縁は、今話す事じゃないし……アタシが勝手に話せる事でもないから。
「芭流覇羅⁉︎」
バッと、千冬の視線が場地に向けられる。
「場地さん、まさか本気で…⁉︎」
「………」
場地は……
「行くぞ、一虎」
千冬を一瞥しただけで、くるりと踵を返してしまった。
「いーのかぁ?場地。折角、ダチが止めに来てくれたのに」
「ハッ、ダチじゃねーよ」
場地は鼻で笑いながら、千冬にまで冷たい声で言い放つ。
「オレの後を、馬鹿みてーについて来ただけのガキだ」
「!」
場地の言葉に千冬は呆然とし、一虎は「ひでーの」と言って笑う。
それに満足したのか、一虎はあっさりと引いてヒラヒラとアタシに手を振った。
「またなーユウ」
「……二度とオレの前に現れンな」
吐き捨てるような場地の言葉を最後に、二人はゴキに乗りこの場から去って行った。