第8章 不審の隊長
「アンタ、正気?」
一人で立ち上がって、アタシは目の前の一虎を睨む。
「今のアタシに、そんな馴れ合いが通じると思う⁉︎」
芭流覇羅が東卍に喧嘩売ってる状況で、一虎はマイキーを殺すって言ってて、場地まで裏切りを宣言したこんな時に……
「昔に戻ったみたい」なんて、どうやったって言えるワケない。
「あっれ?こんなトコまで来てっから、てっきりオマエも芭流覇羅に来るもんだと思ってたのに」
「んなワケないでしょ!アタシは圭介を止める為に追っかけてきたんだよ!」
「オマエが来りゃ、もっと楽しくなんのに。昔みたいにさ、また好き勝手暴れよーぜ?」
まただ……まるでアタシの話が聞こえてないみたいに……
一虎の言動のおかしさに、アタシは頭を抱えたくなった。
「何度言ったらわかんの……アタシが、マイキーを裏切るワケないでしょ⁉︎」
「!」
マイキーとアタシが口にした瞬間、一虎の瞳に暗さが差す。
それを見た瞬間、アタシの背に悪寒が走った。
「…そーかよ」
ド ガッ!
「ッ!」
一虎から放たれた拳を、アタシはすんでの所で受け止める。
上から「チッ」と舌打ちが飛んできた。
パンッ
「うっ、わ⁉︎」
次に予想外の足払いをかけられて、アタシはバランスを崩し地面に尻餅をついてしまう。
ドッ
「ッは…‼︎」
体勢を立て直す前に、腹蹴りを決められた。
反射的に、アタシはお腹を押さえて蹲る……体に走る鈍痛に、じっとりと汗が滲んだ。
「ユウ……オレさ、オマエに参謀辞めろっつったよな?」
ガシッ
髪を鷲掴みにして、一虎はアタシに無理矢理顔を上げさせる。
痛いな、クソ……
殴り返してやりたかったけど、生憎まだアタシの体は動いてくれない。
「辞めてねーって事は、痛い目見る覚悟はできてンだろ」
睨むアタシと、冷たく見下ろす一虎の視線が交わった。
「敵の参謀をみすみす逃す手はねーよなぁ……今ここでヤっちまうか?」
「──一虎」
ここまでずっと黙ってた場地が、後ろから一虎を呼んだ。
「やめとけ」
「あ?何で?」
手はアタシの髪を掴んだまま、一虎は場地を振り向く。
アタシも、場地が止める意味がわからなくて視線を向けた。