第8章 不審の隊長
「新興勢力芭流覇羅は、愛美愛主なんて目じゃねぇほどデケぇチームだ。勝つ為に、東卍も勢力を拡大する‼︎」
ホントはアタシから説明すんのが筋なんだけど、マイキーは自分が言うといって聞かなかった。
「ここにいる稀咲鉄太は、愛美愛主でオレらの世代をまとめてた男だ。芭流覇羅とモメる為に、稀咲は必要だ‼︎」
隊員達の反感を抑える為に……参謀としては情けない事だけど、女のアタシが言うより隊員達は納得してくれるから。
「参番隊隊長は稀咲鉄太‼︎覚えておけ!!!」
総長の宣言に、当然だけど異議を唱える者は一人もいなかった。
(やばい‼︎最悪の展開だ‼︎)
「参番隊隊長任命式を終わる!」
話を締めて、マイキーは踵を返し歩いてく。
「……」
そこでようやく稀咲が立ち上がって、マイキーを振り向いた。
稀咲は「総長!」とマイキーを呼んで、バッと頭を下げる。
「ありがとうございます‼︎」
「おう」
マイキーは足を止めず稀咲に返して、そのまま神社の方まで歩いて行った。
(稀咲が東卍に入って、しかも飛び級で隊長!!?くそっ!このままじゃ、またヒナが…‼︎)
任命式が終われば今日はもう特に話す事はないし、このまま解散かな……
アタシが神社の方に目を向けると、マイキーと目が合った。
アタシをジッと見つめるマイキーの目が、「こっちに来い」って訴えてくる。
「…ケン、解散の号令よろしくね」
「おー。早く行ってやれ」
マイキーの様子から察したドラケンにも促され、アタシは神社の方へ歩き出す。
「帰るぞ」
「ハイ‼︎」
後ろでは稀咲と濱田が、帰ろうと石段を降り始めていた。
タッタッタッタッ
「‼︎」
誰かが石段を駆け上る足音が聞こえて、アタシは後ろを振り返る。
石段を駆け上って来たのは、タケミっちだった。
タケミっちは、真っ直ぐに稀咲に向かって行き──
ゴッ
「‼︎」
稀咲の頬を、殴り付けた。
殴られた衝撃で飛んだ稀咲のメガネが、カランカランと音を立てて地面に落ちた。
「なんっ…はぁ⁉︎」
目の前の光景が信じられなくて、アタシは目を見開き驚愕する。
稀咲は無言のまま固まっていて……タケミっちは、明らかに動揺した様子で息を切らしていた。