第8章 不審の隊長
「なんだアイツ⁉︎」
「ありえなくね?」
「総長に背ぇ向けて座りやがった‼︎」
「なんだテメェこのヤロー!」
「調子のってんじゃねーぞ‼︎」
案の定、稀咲の失礼な態度に隊員達は怒り、次々と罵声を浴びせる。
「……」
それでも、稀咲は表情ひとつ変えず無言で座り続けた。
「オイ…挨拶しねぇのか?」
「なんなんだ、あのヤロー」
一向に挨拶をしようとしない稀咲を隊員達が不審がる中、稀咲の後ろに立つ濱田が口を開く。
「よく聞けテメェら‼︎オレの後ろに座ってる方が!!!新・参番隊隊長!稀咲鉄太だ‼︎」
怒鳴るような大声で、濱田は稀咲に代わってそう宣言した。
(──コイツが、“あの”稀咲⁉︎)
アタシは、やれやれと肩を落としながら、チラッと稀咲の横顔を見る。
「捻くれたヤツ」
まぁ不良らしくて良いけど。
(あの稀咲が、いきなり目の前に…!!!どうする⁉︎どうする!!?)
アタシが呑気な事考えてる間に、隊員達のどよめく空気が変わる。
「アイツ見た事あるぞ!」
「愛美愛主の奴じゃね?」
「愛美愛主の稀咲!」
「!」
稀咲が元・愛美愛主の幹部だと、隊員達が気付いた。
「なんで愛美愛主がここにいんだよ⁉︎」
「引っ込んでろや愛美愛主」
「「「引ーっ込め‼︎」」」
予想通りの敵意とブーイングが、容赦なく稀咲に向けられる。
「「「引ーっ込め‼︎引ーっ込め‼︎」」」
「……」
それでも稀咲は、何も答えなかった。
見兼ねたアタシは動こうとしたけど、それより先にドラケンが一歩前に出ていた。
「黙れ‼︎」
ドラケンの怒号に、隊員達のブーイングが止まる。
「マイキーの決めた事だ。文句ある奴ぁ前に出ろ‼︎」
隊員達は「うっ」と息を飲む……前に出るヤツは、一人もいなかった。
元の位置に戻ったドラケンに、アタシは前を向いたまま小声で話しかける。
「ありがとね、ケン」
「気にすんな」
アタシじゃ、怒号一発で隊員達を黙らせる事は出来ないから……締めるとこ締めてくれる副総長の存在は、ホントに有り難かった。
「東京卍會(ウチ)はこれから、〝芭流覇羅〟とぶつかる‼︎」
結局、稀咲より先にマイキーが話し始める事になった。