第7章 総長と参謀
目の前の男とは、違う声がかかった。
「流石は、東卍の女参謀」
男の後ろから姿を現した、声の主……浅黒く焼いた肌、金髪リーゼント、比較的小柄で…メガネをかけてる男。
その男はアタシの前に立つと、「オレの部下が失礼しました」とアタシの後つけてた男を一歩後ろに退がらせた。
上司でも前にしてるみたいに敬語を使ってくるソイツに、アタシは不快感から眉根を寄せる。
ソイツは、メガネの位置を直しながらこちらをじっと見つめてきた。
「佑川和月さん…ですね?」
「……アンタは……」
「稀咲鉄太と申します」
「……よぉく知ってるよ」
〝愛美愛主〟幹部・稀咲 鉄太
パーちんが逮捕された時、彼を金で出所させる事が出来るとマイキーを唆し、結果的にマイキーとドラケンが喧嘩するキッカケを作った男。
マイキーは、稀咲は長内とパーちんの件には関わってないって言ってたし、実際稀咲に何かされたワケじゃないけど……
アタシは、この男に良い印象を持っていなかった。
「それで?」
稀咲と向き合いながら、アタシはしっかりとその目を見据える。
「“元”・〝愛美愛主〟幹部が、アタシに何の用?」
「……〝東京卍會〟参謀である貴女に、交渉に」
「交渉?」
コイツまさか……
「オレは、東卍に加わりたい」
まだ諦めてないの?
「オレの所には、元・愛美愛主の隊員50人が居る。長内や半間より下の世代で、オレに着いてきてくれた部下達だ」
50人というデカい数を提示しながら、稀咲はキッとした目つきでアタシを見る。
そして、例の“あの要求”を口にした。
「東卍にオレの部下を入れるには、オレを東卍の参番隊隊長にしてもらう」
「………」
ホントに、まだ稀咲がそれを諦めてなかった事に、アタシは正直驚いていた。
“パーちんを金で出所させる”って話がなくなったのは、とっくの前にマイキーから聞いてたハズ……
愛美愛主が壊滅して、1ヶ月半……稀咲はどこにも付かず、独立もせず、ずっと東卍と交渉する機会を伺ってたって事?
東卍に、よっぽど強い拘りがあんのね。
「……アンタ、東卍が芭流覇羅とぶつかるって事は知ってる?」