第7章 総長と参謀
腕の力は緩めないまま、マイキーは間近からアタシの目を覗き込んだ。
「和月……一虎に何もされてねぇよな?」
「……喧嘩は売られたけど」
「………」
「何もされてないよ」
アタシが答えると、マイキーの腕から力が抜けた。
キツく掴んでた腕から手を離して、今度はアタシの手をギュッと握る。
「……もう、一人で芭流覇羅に近づくな。一虎にも会うなよ」
「……ん」
仕方なくアタシは頷いたけど、マイキーはまだ不満なのかムッと眉根を寄せて、アタシに顔を近づけてきた。
「絶ッ対ェ会うなよ」
「わかったって」
「ケンチンの時みてえに、オレに黙って勝手に会ったりしたら許さねーかんな!」
「わーかったってば!」
アタシが何度も返事すると、ようやく満足したのか、マイキーはアタシから顔を離した。
こっそり会ったりしたら、今度こそマイキーの部屋に閉じ込められるかも……
アタシは溜息を吐いて、一虎を説得する策は諦めた。
武蔵神社を後にして、ドラケンは場地や三ツ谷に一虎の事を伝えに行き、アタシはマイキーと一緒に家路に着いた。
神社から手を繋いだまま歩く……道中マイキーは、ずっと無言だった。
「………」
繋がれたマイキーの手は、いつもより少しだけ冷たくて、手汗をかいてる。
半間や芭流覇羅だけが相手なら、マイキーは絶対に緊張なんかしないし、不安を感じる事もない……けど、“あの”一虎が相手となれば、話は全く別だった。
「マイキー」
「ん…?」
一虎は、他でもない──“真一郎を殺した”男だから。
「アンタが不安なら、一緒に居るよ」
「!」
今日再会した一虎は、その過ちをまるで認めてないみたいに、マイキーを逆恨みしていて……「マイキーを殺す」と、ハッキリと口にした。
「──……うん」
コクと頷いたマイキーをギュッと抱き締めて、アタシは安心させるようにポンポンとマイキーの背中を叩く。
頭の中に思い浮かんだのは、真一郎の姿だった。
「大丈夫だからね」
「………」
「アタシが絶対に、一虎を止めるから」
──アタシが絶対に、マイキーを守る。
真一郎に誓うように、アタシはそう心を定めた。