第7章 総長と参謀
根本から食い違う一虎の話に、アタシは混乱してしまう。
「アンタは、寧ろマイキーのお陰で、2年っていう短い期間で出て来れたんでしょ?」
殺したい程憎んでるのだって、マイキーの方のハズなのに……
「なんだよ、恋人は裏切れねえか?」
「……アタシの話聞いてる?」
こちらに聞く耳を持たず好き勝手話す一虎に、アタシは不快感から眉を顰める。
「ユウ……オマエ、オレが少年院(ネンショー)に居た間に、マイキーの女(モノ)になったんだってな?」
「それが何?今は、アタシの話よりアンタの……」
「ヒデーなぁ……オレの告白は断ったクセに、何でよりによってアイツなんだ?」
チリッと痺れるような感覚が、アタシの肌を走った。
アタシを見る一虎の目……暗い狂気を孕んだ、その大きな瞳に。
「オレがオマエを奪ったら、マイキーは絶望すっかな?」
「は?アンタ何言って……」
「ハハッ!そーだよ。そーすりゃあのバケモノも簡単に殺せんだろ」
「!」
また「殺す」と口にした一虎に、アタシはギュッと拳を握り込む。
信じていたかったけど……一虎は本気で言っているんだと、嫌でも理解させられた。
「……アンタには無理よ」
今は悲しみよりも、怒りが強く、アタシの心を震わせる。
「アンタが芭流覇羅で何をしようが、アタシがマイキーを守るから」
──一虎に、マイキーは殺させない。
「絶対に!」
宣言するアタシに、一虎が「チッ」と舌を打つ。
「最後に警告しといてやるよ。オマエ、今すぐ参謀辞めろ。……辞めねーなら、オレはマイキーの目の前でオマエを──」
「警告なんてヌルい事やってて、東卍に勝てると思ってンの?相変わらず女に甘いのね」
一虎の言葉を遮って、アタシは一虎を煽った。
一虎はイラついたように、また舌打ちをする。
睨み合うアタシ達の間に、冷たい空気が流れた。
そこへ、後ろから「一虎くーん」と間抜けな声がかかる。
「一虎君、半間さんが呼んでますよ」
「邪魔すんな。今──」
ダッ
一虎が芭流覇羅の隊員に返事した瞬間、アタシは地面を蹴って走り出した。
「ユウ‼︎」
一虎の声を背中越しに聞きながら、アタシは路地を抜けて表に飛び出す。
(……あーあ、逃げられちまった)