第5章 8月3日
「マイ──!」
タケミっちはマイキーを呼ぼうとしてすぐ、その口を閉じた。
アタシは自分の唇に人差し指を当てて、タケミっちに静かにしてるように伝える。
タケミっちは、アタシにコクと頷いた。
「………………」
アタシ達は、マイキーに気付かれないように、病棟の影に身を隠す。
マイキーは、もたれてた壁からずり落ちるように、その場に座り込んだ。
「……よかったっ──ケンチン」
マイキーの、震えた声が聞こえる。
額を押さえながら上げたその顔は、たくさんの涙を流していた。
みんなの前では隠してた不安と恐怖が、堰を切って溢れるように。
(気丈に振る舞ってたんだ。みんなを励ます為に……そうだよな───一番辛かったのは、マイキー君だ)
「心配かけさせやがって…」
マイキーの声を聞きながら、アタシは「ふー」と息を吐く。
あーあ、結局タケミっちに泣いてるトコ見られてやんの……言った通りトイレ行ってりゃ良かったのに。
「……タケミっち」
アタシはマイキーに気付かれないように、小声で呼びながらタケミっちの肩に手を置いた。
「表でヒナちゃんとエマが待ってるから、今日はもう二人と一緒に帰って……マイキーなら、心配ないから」
「……はい」
タケミっちは頷いて、ゆっくりと来た道を戻って行った。
その背中が見えなくなるまで見送ってから、アタシはマイキーの方へ歩き出す。
アタシの足音はもう聞こえてると思うけど、マイキーは反応せずに俯いたまま。
マイキーの前に立つと、彼の上にアタシの影が差した。
「……ハンカチ、使えばいいのに」
マイキーの手に握られたハンカチは、使われた様子はなく乾いたまま。
「……コレ、オマエの匂いがしねぇんだもん」
「そりゃさっき買ったやつだからね」
ズズ、と鼻を啜る音が聞こえた。
アタシはマイキーの前に蹲み込んで、マイキーの手からハンカチを取り、顔の前に差し出す。
「ほら涙拭いて、鼻擤んで」
アタシがそう言うと、マイキーは顔を上げた。
けど動こうとしない……じっと、涙に濡れた目でアタシを見てくるだけ。
「拭かないの?」
「…………」
「……あーもう」